自筆証書遺言に「葬儀の希望」や「家族仲良く」と書いて意味があるのか?

先日、おじいちゃんが遺言書をしたためている時に「共同遺言は禁止」という話をしました。

自筆証書遺言の「自筆」について考える!家族はお手伝いしていいの?

共同遺言とは、一枚の紙に二人の人間が遺言を記載することをいいます。遺言書作成のルールにおいて、自筆証書遺言は一人につき一つであり、いくら夫婦でも同じ紙を使って一緒に自筆証書遺言を書くことは基本的に禁止されています。

伊東家のおじいちゃんの預金は、おばあちゃんが通帳などの管理をしています。おじいちゃんは「だから一緒に遺言した方がいいのではないか」と言いましたが、こういった事情があっても「共同遺言は禁止」であり「遺言書は一人一人作る」ことが必要です。

そこでおじいちゃんは、おばあちゃんにも相続対策として自筆証書遺言に挑戦してみるように言いました。今回は、伊東家のおばあちゃんが自筆証書遺言の作成に挑戦するお話です。

おばあちゃん自筆証書遺言に挑戦する

祖母
「最初は自分だって相続対策に乗り気じゃなかったくせに。相続対策は『財産のある家には必要でうちは関係ない』なんて言っていたじゃないですか。まったく、ちょっと面白そうだとすぐに手を出すんだから」

おばあちゃんはぶつぶつと文句を言っています。目の前には白紙の便箋と判子、ボールペンが置かれています。確認ですが、自筆証書遺言のルールは「自書」「記名」「押印」「年月日の記載」です。パソコンなどの機械で作製した文書はたとえ自分が打ったものでもNGです。自筆証書遺言という名前通り、自分の手で書かなければいけません。

記名、年月日の記載にも執筆上のルールがあります。また、押印は必ず実印でなくてもよく、拇印でも差し支えないという判例があります。おばあちゃんの前には、自筆証書遺言の作成に必要な道具がきちんと一式そろっています。

祖母
「遺言書ねえ。私にはほとんど預金はないし、土地も家もお父さん名義だものね。特別、遺言書に書くような遺産はないわね。どうしたものかしら」

しかし、道具があっても、いざ遺言書を書くとなると難しいですよね。おじいちゃんがそうだったように、おばあちゃんもなかなか内容が思い浮かばない様子。ボールペンで何か書こうとしてはやめ、やめては溜息をつきの繰り返しです。

おばあちゃんが迷っている間に、時刻は十六時を過ぎてしまいました。そろそろお母さんが夕飯の支度をはじめる頃です。孫たちが学校から帰ってくる頃でもあります。案の定、ダイニングのドアが開き、学校帰りらしいA子が「ただいま」と入ってきました。

A子
「どうしたの、おばあちゃん?難しい顔をして」
祖母
「あら、A子ちゃんお帰りなさい。・・・実はね、自筆証書遺言というものに挑戦しているの。でも、なかなか内容が思い浮かばなくてね」
A子
「遺言?遺言って、自分が死んだ後のことを書いておくものだよね」
祖母
「そうそう、よく知っているわね」
A子
「この間、ドラマで見たもん。遺言書を巡って殺人事件が起きるんだよ。うちも殺人事件が起きるの?」
祖母
「起きません。ああいうドラマはね、遺言書というより、遺言書に書かれている遺産の分割を巡って殺人になるのよ。2008年の裁判所のデータによると、一年間に裁判所に持ち込まれる相談のうちの15万件は遺言書に関するものだそうよ。でも、うちは相談しても財産そのものがないから、そこまでこじれることはないと思うのだけど。息子たちも仲がいいし。ああ、そうだ。どうせなら遺言書に『喧嘩しないで仲良くやりなさい』とでも書いておこうかしら」

おばあちゃんは、「これは名案だわ」と手を叩きます。

遺言書には本来、『財産の分割法方』などを記載します。おばあちゃんは相続対策のために『兄弟仲良く』や『家族仲良く』といった記載をするつもりのようですが、これは有効なのでしょうか?

おばあちゃんとA子の話は続きます。

 

自筆証書遺言にはどんなことを書いてもいいのという疑問

 

A子
「遺言書に自分のお願いごとを書いていいなら、もっと色々書いた方がいいよ、おばあちゃん。うちのお父さんに『アスパラとピーマンも残さず食べなさい』とか。あと、お葬式の希望も書いておいたらいいんじゃない?」
祖母
「お葬式ねえ・・・自分の葬式のことを考えるのは、ちょっと悲しいわね」
A子
「だったら、元気が出るようなお葬式のやり方を遺言書に書けばいいじゃん。『お葬式には氷川きよしのCDをかけてください』とか。『遺影を氷川きよしのコンサートに連れて行ってください』とか。おばあちゃん、コンサートの日と都合がなかなか合わないって残念がっていたよね?」
祖母
「あら、そういう想像をすると楽しくなってくるわね」
A子
「遺言書が『自分の死後のお願いを書いていいもの』なら、希望は大きく書いておいた方がいいんじゃないかな?」
祖母
「そうねえ・・・じゃあ、『葬儀に氷川きよしを呼んで歌ってもらいたい』とでも書いておこうかしら」
A子
「いいんじゃない?」
祖母
「こうやって色々な希望を書いてみると、遺言書って七夕の短冊みたいねえ」
A子
「でも、遺言には意味があるって聞いたよ。この間のドラマでも、『遺言書には効力がある』って弁護士さんが言っていたよね」
祖母
「あら、じゃあ、短冊と違って遺言書に記載すれば自分が死んだ後のお願いごとを『何でも』叶えてもらえるということかしら?遺言書にはどれだけの力があるのかしら?だったら、凄いことね」
A子
「もし本当に遺言書に書いた内容を何でも叶えなければいけないなら、残された家族は大変かも。ねえ、おばあちゃん、氷川きよしを葬儀に呼んで歌ってもらうとどのくらいのお金がかかるのかな?」
祖母
「さ、さあ?でも、確かにそうね。遺言書は遺された相続人や家族が中身を確認して実行するわけだから、どんなことでも書けば叶うということなら、負担が大きいはずよね。遺言書の記載はどんな記載でも効力を持つのかしら?」
A子
「書いたことが何でも有効だったら、『葬儀は東京ドームでお願いします。氷川きよしを呼んでください。参列者は絶対に1万人で』とかも、家族が頑張らなきゃいけないってことじゃない?」
祖母
「書く方はいいけど、書かれた方はたまったものではないわね」
A子
「おじいちゃんあたりは『そんなこと書いちゃ駄目じゃないか!』って怒りそうだよね」

 

遺言書に書いて意味のあることとないことがある?

実は、遺言書に記載できる内容は決まっています。いいえ、これは正確な表現ではありませんね。A子の言葉を借りて表現するなら「書いても意味のあること」「効力を持つこと」は決まっていると言った方が正確です。書いてもいいのですが、遺言書に記載することによって効力のあることは決まっているのです。

代表的なものは「遺産の分割について」です。例えばある人が亡くなって100万円の預金を遺したとします。その人は生前に有効な遺言書を作成していました。相続人は子供と妻でした。法律通りの相続でいけば、相続順位1位の妻と子供は50万円ずつを相続します。しかし遺言書には「妻に100万円の預金全て相続させる」と書いてありました。妻は遺言書に従って法律とは異なる相続分で相続をしました。有効な遺言書は基本的に法律による相続に優先するため、このように自分で自分の相続をプロデュースすることができます。自分の死後、財産を誰にどのくらい渡すか指定することもできる、相続対策にぴったりな方法なのです。

しかし、自分の相続をプロデュースできるとしても、遺言書の効力には限度があります。一定の記載内容は効果を持ちます。反対に、記載して効力のある内容以外は「意味のないもの」「ただのお願いで拘束力はない」のです。

  • 相続分の指定
  • 遺産の分割方法の指定
  • 遺贈について
  • 寄付について
  • 相続人の排除
  • 排除の取り消し
  • 遺留分減殺請求の方法の指定
  • 一定期間の遺産分割の禁止の指定
  • 未成年の後見人や後見監督人の指定
  • 遺言執行人の指定

 

これらが遺言書に記載すると効力のある事柄です。身分に関すること(認知など)、遺産に関すること(遺留分減殺や排除など)が主に効力を持つ事柄になります。文言を見ると随分難しそうです。詳しい説明は省きますが、大まかに「遺産や相続人に関することを遺言書に書く」と覚えておくのがいいでしょう。

対して効力を持たない事柄は、おばあちゃんとA子が話していたような「家族仲良く」「遺産争いはやめなさいね」「兄弟仲良く生活しなさい」「こんなお葬式にして欲しい」「嫌いな食べ物も残さず食べなさい」といった内容です。自分の希望として書き残すことはできるのですが、遺産分割や身分に関する事柄のように効力を持つことはないので注意が必要です。

自分の相続をプロデュースできるといっても、遺言書に書けば何でも希望が叶うというわけではないということです。今回、おばあちゃんとA子ちゃんが話していた内容は、遺言書に書いても効果がないのに、よく「遺言書に書いておきたいわ」「残された子供たちに伝えたいわ」と言われる内容です。皆さんも「葬式はしなくていい」などの内容を遺言書に書こうと思ったことはないですか?それ、実は書いても意味がないかも・・・?

 

最後に

A子
「遺言書に書いたからといって何でも効力があるわけではないんだね」
祖母
「そうだったのね。よく趣味で編み物をする友達が集まると、家族の話になるのよ。そこで、葬儀が大変だとか、そういう話を聞いて、中には『葬式は派手にしなくていいから』なんていう人もいるの。でも、それを遺言書に書いても、遺産分割のように効力はなくて、ただのお願いにしかならないということね」
A子
「でも、自分の希望を伝えることは大切だと思う。うちのお父さんも、アスパラのパスタが出た日に『暫くアスパラは食べたくない』ってちゃんと伝えていたもの。お母さんは『はいはい』って聞いていたよ。希望を伝えることは、例えそれが絶対に叶うわけでも、法律上の効果がなくても、家族が参考にできるから意味があるんじゃないかな。お母さんもよく『食べたいものや嫌いなものは言ってもらった方が献立も立てやすい』って言っていたし。お葬式についても、遺された家族の参考になるんじゃないかな」
祖母
「そうね。遺言書に関わらず、伝えるということは大切なことかもしれないわね」

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